校正者の役割とは?
Pete:品質管理担当・校正者の役割は,担当する論文すべてを当該分野に精通した英語ネイティブが執筆したものと遜色ない仕上がりにすることです。また,品質管理の段階では,校正者が当社の提供するサービスの枠内でお客様の期待に応えるような校正を行っているかどうかチェックします。
なぜ論文執筆者が原稿の校正にも注意を払わなくてはならないのか?
Pete:誰かに論文を読んでもらい,弱点を指摘してもらうのはどんな執筆者にとってもメリットがあります。そもそも,出版社のスタイルガイドなど文章スタイルに関する明確な指針を扱った経験がない限り,スタイルや形式などに留意しつつ文章体系や文章構成を整え,専門的な内容について論述するのは中々難しいものです。
しかし,語彙力不足や不自然な表現,区切りが不適切なぎこちない文章構成など,英文の書き方に問題があると、本来なら強固な構成の文章も貧弱なものになってしまいます。もちろん,文章構成や内容,スタイルといった面でのサポートを必要としない執筆者もいないわけではありませんが,英文の書き方に関する校正はほとんどすべての執筆者の役に立ちます。とくに,世界中に読者を持つ英文ジャーナル上で研究成果を発表するなら,英文校正は執筆者が英語ネイティブかどうかにかかわらず大切になるでしょう。
AJEの英文校正サービスに関する詳細はこちら
論文執筆で最も難しいのは?
Pete:ありがちなのは次に挙げるような英文法や語法に関する不備です。こういったミスは論文を書き慣れた執筆者でもうっかり犯してしまうことがあります。
- 懸垂修飾語:懸垂修飾語とは,どこに掛かるのかがはっきりしない修飾語や修飾節のことです。被修飾語があるはずなのですが,それがどれなのか特定できないということです。
- 不適切な並列表現:複雑な語句を羅列したりいくつも列挙したりする場合,列挙された各項目の文法的な形式が揃っていないと読者を混乱させてしまいます。たとえば,3つの項目を並べる場合,そのすべてを節にするか文章にするか,あるいは同じ品詞(名詞・動詞・形容詞など)の単語にするか,統一しなくてはならないということです。
- 従属節の多用:従属節や従属文(that, which, because, sinceあるいはasで始まるような節や文)は文章を散漫にして,主語と動詞のつながりを不明瞭にしてしまうことがあります。
- 等位接続詞の多用:プロセスや手順,装置といった複数の要素やステップを含む事柄を説明する場合,一文の中に詳細を詰め込み過ぎてしまうことがよくあります。とくに,等位接続詞 (and, but, for, nor, or, so, yetなど)を多用しすぎるとそういった問題が起きやすくなります。
- 過剰にコンマを打つことで細分化された文章:句読点の打ち方は些細な問題だと思われがちですが,これが不適切だと表現が不自然になってしまったり意図しない部分に重点が置かれてしまったりするほか,誤解を招いてしまうこともあります。
執筆者はこういった問題にどう対処したらよいのか?
Pete:不自然な文章に対処するにはまず,主語と動詞が明白になっているかどうか確かめる必要があります。前述のような文法的な不備のせいで,どの名詞が主語なのか,動詞とどのようにつながっているのか,付加的な情報と主語および名詞の関連性は何かといったことが読者にとってわかりにくくなってしまっている可能性があるからです。
懸垂修飾語も見落とされがちです。しかも,読者はたいてい執筆者のあいまいな表現を自己流に解釈してしまいます。
たとえば,次のような文章はどうでしょう:
"After magnetically stirring for 3 h, the solution was transferred into a 50 mL Teflon-lined stainless autoclave."
この文章には問題があります。というのも,これだと溶液が自分から攪拌されるということになってしまうからです。この場合「After magnetically stirring for 3 h」というフレーズが懸垂修飾語になっているわけです。
しかし,溶液が自分自身で操作を行うことはありえず,むしろ操作が行われる対象であることを考慮すると,この文章は以下の2つの候補のうちどちらか一方のように書き換えることで文意を明確にすることができます:
- After magnetically stirring for 3 h, we transferred the solution into a 50 mL Teflon-lined stainless autoclave. (実験者が攪拌する場合)
- After being magnetically stirred for 3 h, the solution was transferred into a 50 mL Teflon-lined stainless autoclave. (溶液が前もって攪拌されている場合)
不適切な並列表現は往々にして列挙されている内容をわかりにくくしてしまいますが,経験豊富な執筆者でもときには複雑な並列表現を使ってしまうことがあります。
次の文章の場合,大半の読者にとって文意は明白でしょう:
"Additionally, grapes can be used to produce grape seed oil (used for cooking), salad dressings, or for cosmetic products."
しかし,3つ目の項目は最初の2つの項目と並列になっていません。というのも,3つ目の「for cosmetic products」は前置詞句であり,その他2つと異なっているためです。
並列表現を用いる場合,列挙される語句はすべて類似の文法構造になっている必要があります。先ほどの例なら次のように修正することができます:
- Additionally, grapes can be used to produce grape seed oil (used for cooking), salad dressings, or cosmetic products.
等位接続詞や従属節の多用はMicrosoft Wordの校正機能で見つけ出すことができる場合もあります。この機能を利用する場合,ユーザー設定を変更することで警告を表示する単語数や長さをカスタマイズすることができます。
また,従属節によって文章が細分化され,主語と動詞の間に語句がいくつも挿入されることで読者を混乱させてしまうことは珍しくありません。
たとえば,次の文章では動詞が完全に抜け落ちてしまっています:
"However, the draining site, such as most fistulas draining into the PA, which are frequently tortuous, thin and have a small shunt with no significant hemodynamic change and normal or mild enlarged cardiac chambers and coronary artery trunks."
この例で「site」という単語は「such as most fistulas draining into the PA」という修飾語および「which are frequently tortuous, thin and have a small shunt」という修飾節を伴っています。また「shunt」には「with no significant hemodynamic change」という修飾がなされていますが,「a small shunt」以降は後半の文章が始まってしまっています。つまり「site」に対応する動詞がないのです。
しかし,動詞を追加し,余分な従属節を削除することで文意を明確にすることができます:
- However, it is easy to observe such draining sites, as with most fistulas draining into the PA. These sites are frequently tortuous and thin, and they have a small shunt with normal or mild enlarged cardiac chambers, coronary artery trunks, and no significant hemodynamic change.
では,次に挙げる実験手順の例はどうでしょう:
"Serial 4-μm sections were cut for immunohistochemical analysis and run through an automated protocol, including heat antigen retrieval, and specificity was determined using appropriate positive controls, and the omission of primary antibody served as a negative control."
この文章がわかりにくいのは,手順に関する別々の要素が4つの等位接続詞によって一文にまとめられているためです。
そこで,各要素を節に分けて書き直してみましょう。1つ目の要素は一文にまとめ,2つ目に関してはセミコロンでつなぐのがよいでしょう:
- Serial 4-μm sections were cut for immunohistochemical (IHC) analysis and run through an automated protocol including heat antigen retrieval. Specificity was determined using appropriate positive controls; the omission of primary antibody served as a negative control.
一方,コンマの打ち過ぎも文章構造の貧弱化につながります。
句読点の打ち方は些細な問題だと思われがちですが,たとえば次の文章のように恣意的な句読点の利用は読者を混乱させてしまいかねません:
"A safe, reliable, easily repeated procedure, that included five preparatory steps, was implemented, and was demonstrated to be effective, at determining the outcomes."
このような場合,不要なコンマを削除することで文意を明確にすることができます。まず,制限用法の「that」節の前後にコンマは不要です。次に,この文章で「and」がつないでいるのは複合述語ですが,等位接続詞の前にコンマが必要なのは独立節同士をつなぐ場合だけです。さらに「at determining the outcomes」という前置詞句は導入句や挿入句ではないためコンマは不要です:
- "A safe, reliable, easily repeated procedure that included five preparatory steps was implemented and was demonstrated to be effective at determining the outcomes."
執筆者が自分自身でこういった問題を修正することができるかどうかは,執筆言語に対する習熟度に大きく依存します。しかし,経験豊富な著者であっても論文執筆の際に不備のある表現を見逃してしまうことがあります。執筆者本人は自分の言いたいことがわかっているため,不備のある文章でも読者に意図がきちんと伝わっているはずだと思い込んでしまうからです。
言い換えれば,読者は執筆者の意図を汲み取るために必要な情報を持っていないかもしれないということです。このことからも,校正者,とりわけ研究分野に精通した英語ネイティブによるサポートを受けるのはあらゆる執筆者にとって有益だとおわかりいただけるでしょう。
なぜ執筆者は文章の不備に気を付けなくてはならないのか?
Pete:執筆者が文章構成を蔑ろにすると読者は著者の意図を読み取ることができなくなってしまう可能性があります。そして,こういったコミュニケーションの欠如は,出版社によって論文がリジェクトされてしまったり,たとえ公開されても意図した読者層に正しく理解してもらえなかったりといった不利益につながり得ます。さらに,貧弱な文章で研究成果を発表すると,読者は内容の理解に骨を折らなくてはならないため,あなたの発見が見逃されてしまうおそれもあるのです。
要するに,とりわけ新奇性があったり読者の専門領域に関連する内容だったりしない限り,大半の読者はぎこちない文章の意図を苦労して理解しようとはしないということです。特別な場合を除いて読者はそれほど忍耐強くないのです。
おわりに
ジャーナル編集者とつながりを作り,意義深くクオリティの高い研究をジャーナルに投稿することは研究発表を成功させる上でカギとなります。そこで,AJEが誇るプロの校正スタッフによる英文校正 サービスにお任せください!