電子投稿・査読システム
現代の学術研究に欠かせないものとなった論文原稿の電子投稿・査読システム。こういったシステムは、編集者や執筆者、査読者の間で迅速かつ円滑なコミュニケーションを可能にするため大半の学術誌出版社で利用されています。この種の原稿投稿システムは関係者全員の時間や手間を省くことができるよう設計されており、セキュリティ対策も万全です。実際、執筆者はソフトウェアにログインするだけで投稿済み論文のステータスを確認することができるほか、査読者も都合に合わせてコメントやアドバイスの入力ができます。さらに、編集者も査読の全プロセスをチェックしながらコメントの追加ができるのです。したがって、こういった原稿査読システムは比較的シンプルです。利用法についてはジャーナルのウェブサイト上にある「執筆者向け情報」のページ、あるいは投稿ガイドラインに関するセクションに掲載されているのが普通です。また、論文投稿用ソフトウェアを通じた投稿のプロセスは、ScholarOneにせよEditorial Managerにせよ、記入すべき情報やチェックリストに些細な違いがあることを除いておおむね共通です。
プレプリントと査読中の論文
学術研究に携わる人であれば誰でも、論文原稿の準備・投稿から掲載までに至る過程が長くわずらわしいものであることを知っているでしょう。最近ではこの課題を克服するため、論文投稿システムに新たに加わった仕組み「プレプリント」が活用するようになってきました。プレプリントとは、論文執筆者自身によってプレプリント用プラットフォームに公開された査読・掲載前の最終稿のことです。多くの場合、プレプリントにはデジタルオブジェクト識別子(DOI)が付与されており、他の研究者も引用できるようになっています。これによって大幅な時間短縮が見込める上、執筆者および研究成果が読者の目に留まりやすくなるわけです。プレプリント原稿は特定のジャーナルに紐づけされておらずオープンなので、世界中で同じ分野に携わるベテラン研究者たちからレビューやコメントをもらうことができるというメリットがあります。そして、万が一プレプリントが脆弱だという指摘が多くなされた場合には、ジャーナル投稿や査読の前に修正するチャンスだと捉えればよいわけです。Research Square社とSpringer Natureグループが共同で設立した「In Review」という無料のプレプリントサービスは700誌を超えるSpringer Natureのジャーナルと提携を結んでいます。「In Review」を利用する執筆者は提携ジャーナルに論文原稿を投稿すると同時にプレプリントの公開を行うことができるため、世界中の研究者たちからフィードバックをもらったり査読状況をチェックしたりできるほか、投稿先ジャーナルに掲載される前に論文原稿を引用してもらうことも可能です。プレプリントが学術研究者にもたらすメリット は数多くあります。ここで「In Review」以外のプレプリントサーバーもいくつか挙げておきましょう:
- Advance:SAGEグループが提供する人文社会学研究用プレプリントサーバー
- SSRN:Elsevier社が運営するオンラインのオープンアクセス・プレプリントコミュニティ
- Preprints:MDPI社が運営する多分野横断型プレプリント・プラットフォーム
- Zenodo:オープンソースの一般用プレプリントレポジトリ
- MedRxiv:Cold Spring Harbor Laboratory、イェール大学、BMJ誌が共同設立したメディカルサイエンス向けプレプリントサーバー
適切な投稿先を見つける
出来の良い論文原稿を仕上げることはジャーナル掲載プロセスにおいて重要な要素ですが、何よりも大切なのは適切な投稿先を見つけることです。あなたの研究論文が掲載された学術誌はあなたのポートフォリオとして、共同研究や就職の見通し、資金提供に至るまで研究職キャリアのあらゆる面に影響を及ぼすからです。適切な投稿先ジャーナルを選ぶ上で考慮すべき5つの要素は:
- 原稿を下書きする際に、投稿先候補をいくつか書き出す。
- ジャーナルの狙いと主旨があなた自身の研究と一致しているかどうかチェック。
- 査読論文の掲載を行うジャーナルであるかどうかチェック。
- ジャーナルの掲載履歴に目を通し自分の研究の新奇性をチェック。
- ジャーナル掲載までにかかる平均的な時間をチェック。きちんとした学術誌への投稿に自信がない場合は、オープンアクセスで公開できないかについても検討しましょう。論文原稿の投稿先選びに関して十分な情報に基づく判断をサポートするために当社が開発した無料のツール「JournalGuide」もぜひご活用ください。
投稿前に行う推敲の秘訣
研究論文の執筆は大変な作業です。なかでも、何時間にも及ぶ原稿執筆の末に迷走してしまうようなケースでは特に苦労することになるでしょう。しかし、大半の学術誌は文章の明瞭さや簡潔さ、さらにガイドラインの遵守について厳格であり、こういった基準を満たさない論文原稿はリジェクトされてしまう恐れがあります。論文原稿の推敲にてこずりがちな方のために、ここでいくつかのコツをご紹介しましょう:
- 読者の立場にたって読む:草稿を書き上げたら、まず一息ついてから作業に戻りましょう。次に、原稿を読者の視点から眺めます。これによって新たな切り口で自分の論文を捉えることができるのです。読者層を想定し、学術用語は適切に用いられているかチェックしたり仲間内の用語を取り除いたりして、研究テーマにあなたほど詳しくない人でもわかるようにしてください。
- 整理整頓する:これはカギとなるステップです!ステップ1を考慮した上で、主題から逸れないように注意しながら不要な単語や冗長な表現を削除します。
- 文法と句読法:原稿の校正を行う際には、論文全体を通して句読点の打ち方は正しいかどうかチェックしましょう。ピリオドやコンマ、コロン、セミコロン、エヌダッシュやエムダッシュといった記号を見直すわけです。見直しの際には、動詞の時制が内容理解を促す上で適切に用いられているかどうか重点的に確かめてください。方法や結果の章では、あなたが行った操作や発見については過去形を、すでに正しいことが証明されている内容については現在形を使います。
- 学術誌のガイドラインを遵守する:投稿先ジャーナルの要求するフォーマットを遵守しましょう。フォーマットは学術誌ウェブサイトの「執筆者向けガイドライン」に掲載されているはずです。論文の推敲では単語数が制限内に収まっているか、タイトルページやカバーレターに記載すべき情報に漏れはないか、図表はガイドラインに沿っているか、引用形式は適切かといった形式上の決まりを確認してください。とりわけ重要なのは投稿先ジャーナルの査読プロセスが単盲検なのか二重盲検なのかチェックすることです。
- プロの校正者に依頼する:上記のステップを漏れなく実行し、研究成果を明瞭かつ正確に伝えるには、あなたの研究分野に詳しいプロの校正者に依頼するのがベストです。プロの校正者は学術論文に特有の問題を一流の文章で解決してくれるはずです。つまり、文法的な過ちを正して文章を磨き上げると同時に、学術用語の使用法も修正してくれるということです。誰に依頼したらよいかわからないという場合には、当社の校正サービスをご覧ください!
オンラインジャーナル投稿の大まかな流れ
投稿先ジャーナルを選び、研究論文の原稿を書き上げた上でジャーナルのガイドラインに従ってフォーマットを整えたら、いよいよ投稿プロセスのスタートです。ここでは覚えておくべきいくつかのポイントを取り上げます:
- 事前に準備する:論文投稿システムによって論文に関する情報を求められることがあるため、投稿プロセスに入る前に整理しておくとよいでしょう。特に、すべての共著者の氏名・所属・電子メールアドレス、アブストラクト、カバーレター、利益相反や資金提供元の開示、その他の申告といった内容は事前にチェックしておきましょう。
- 登録またはログイン:システムを初めて利用する際には登録が必要となります。また、次回以降のログインのためログインデータは忘れないようにしましょう。
- ファイルのアップロード:この段階で、論文原稿および、補足資料や図表をはじめとする添付ファイルのアップロードが求められます。アップロードするファイルの形式については執筆者向けガイドラインの中で指定されているはずです。これらに加えて、投稿フォームや申告書をアップロードしなくてはならないこともあるでしょう。ガイドラインを参照して詳細をチェックするようにしてください。
- 査読者のコメントを確認する:論文原稿の投稿後に査読者や編集者から修正を求められた場合には、その質問やアドバイスにひとつずつ回答しなくてはなりません。また、原稿内の修正箇所すべてにハイライトで印をつけるのも、修正済み原稿に対する編集部の判断をスピードアップする上で役立つでしょう。
- 査読状況を逐一チェックする:システムにログインし、投稿の際に付与された照会番号を入力するだけで投稿済み論文のステータスを確認することができます。ひとたび論文が受理されたら別のプラットフォーム上での公開も解禁されます。他の研究者たちの目に留まる可能性を高めて将来的な共同研究のチャンスにつなげましょう。
ジャーナル投稿の際に避けるべき、よくあるトラブル
最後に、原稿をジャーナル投稿する際に守るべきチェックリストをご紹介します:
- 論文原稿:文章は明瞭かつ簡潔で、投稿先ジャーナルの主旨に合っていることをチェック。
- ジャーナルが要求するフォーマット:原稿がジャーナルのガイドラインに沿っているかどうか、じっくり時間をかけて確認。
- 査読における盲検のタイプ:ジャーナルが指定する査読タイプ(単盲検あるいは二重盲検)に論文原稿が従っているかチェック。
- 申告書:義務付けられた申告書は共著者全員が提出すること。
- ファイル形式:ジャーナル指定のファイル形式を守ることはとても大切です(特に図表)。
- 査読者への回答:査読者のコメントやアドバイスには、同意しない場合であっても一つずつきちんと回答しましょう。プロ意識を持って感情的にならないように注意してください。
最後に
研究論文の執筆と投稿は一見、気の遠くなる作業に思えるかもしれません。しかし、ワンステップずつ着実に進めてゆけば、実はシンプルです。また、執筆者に非常に大きなメリットをもたらすプレプリントも検討に値するはずです。では、本記事の情報をぜひ次回のジャーナル投稿に役立ててください。
AJEでは、英文校正サービスや科学論文校閲、学術翻訳をはじめとする、包括的な執筆者支援のサービスを提供しています。AJEのサービスに関してご質問やご意見がございましたら、当社のサポートチームにご連絡ください。ここでご紹介した情報が、みなさまが次の論文原稿を準備する際のヒントとなり、研究が順調に進展することを願っております。