研究仮説とは何か?
一般的な仮説
誰もが小学生のころから慣れ親しんでいる「仮説」という言葉。仮説とは事実に基づいた推測や予測のうち、まだ立証されていないもののことです。これは科学的方法の実践に不可欠なステップです。研究の仮説は、実験を通して立証するか異論を唱えるための推進力になります。
研究仮説
一方で研究仮説は一般的な仮説よりも限定的で、検証可能な実験や調査の結果について学術的に正しいと期待される予測のことを指します。
どうすれば効果的な研究仮説を立てることができるのか?
優れた研究仮説とは、ある研究に関する従属変数および独立変数の関係を明確に記述したものです。実験や調査の結果次第では棄却されることもあります。
研究仮説のチェックリスト
研究仮説を立てたら、次の項目を満たしているかどうかチェックしましょう:
- 検証可能であること:仮説にはそれを検証する手段がなくてはなりません。検証できないようなものは仮説とは呼べません。
- 従属変数および独立変数を含んでいること:1つ以上の独立変数(原因)と1つ以上の従属変数(結果)が含まれていなくてはなりません。
- 平易な言葉で書かれていること:できる限り明確かつ簡潔に。解釈次第で意味が変わってしまうような文章はやめましょう。
- 研究テーマに即していること:宇宙空間に関する研究仮説に犬や猫は出てこないはずです。研究テーマに即した仮説を立ててください。
効果的な研究仮説を立てる方法
まずは疑問文で考える
まず、ジャーナリズムのアプローチで研究仮説を立ててみましょう。5つのWで始まる「誰が・何を・いつ・どこで・なぜ」のような疑問文で考えましょう。
たとえば「空はなぜ青いのか?」といった具合です。
予備調査を行う
疑問が頭に浮かんだら、そのテーマに関連する研究論文を読みましょう。学術雑誌から先行研究を調べてみてください。
空はなぜ青いのかというテーマについて情報を集めるのであれば、大気や気象、宇宙、太陽などに関する研究を調査することになります。
仮説を下書きする
予備知識をつけ、研究テーマに対する理解が深まったところで作業仮説を立てます。作業仮説は決定版ではないので、この段階であまり深く悩む必要はありません。下書きだと思って気軽に取り組みましょう。
空の色が研究テーマの例では、最初の作業仮説は 「空が青いのは、地球の大気中に存在する何らかの分子のせいである」といった具合になります。
作業仮説を洗練させる
次に作業仮説を洗練させます。先ほどご紹介した「研究仮説のチェックリスト」に記載されている内容だけを含むように情報を絞り込みます。
空の色に関する例でこの作業を行うと、新たな仮説は「太陽の光が酸素分子に衝突することで空は青く見えている」となります。
帰無仮説を立てる
帰無仮説は研究仮説の否定命題です。調査や実験を通して棄却できるようなものでなくてはなりません。
先ほどの空の色の例では、帰無仮説は「太陽の光が酸素分子に衝突することで空が青く見えているわけではない」のようになります。
明確かつ検証可能な仮説を立てることがなぜ重要なのか?
論文原稿がジャーナルにリジェクトされる主な理由の1つに脆弱な仮定があります。実際にIsh Kumar Dhammi博士とRehan-Ul-Haq博士は『Indian Journal of Orthopaedics』で「不十分な仮説・研究デザイン・方法論および統計の不適切な使用が原稿リジェクトの理由として挙げられる」と述べています。
また、James M. Provenzale博士は『American Journal of Roentgenology』で次のような説明を行っています:「序論で研究に関する疑問(あるいは仮説)を明確に提起することは、査読者に研究の意図を理解してもらう上で重要です。研究の目的をわかりやすい言葉で明確に述べるのが一番です(たとえば「本研究では条件xによって条件yが導かれるかどうか検証する」など)。不十分な問題提起は原稿がリジェクトされる最も一般的な理由の一つです」
仮説を脆弱にしてしまう要素としては以下のようなものがあります:
- 不明確な変数
- 独自性の欠如
- 一般的すぎる
- 特殊すぎる
- 曖昧すぎる
- 検証が不可能である
脆弱な仮説は研究方法や研究そのものの脆弱性につながります。論文の目的は、仮説の立証または棄却(あるいは帰無仮説の立証または棄却)です。仮説が研究対象の従属変数でない場合には、その論文の方法に疑問が生じることになってしまいます。
強力な仮説は科学的方法を実践する上で不可欠です。まず2つ以上の変数の間にあると推定される関係について仮説を立て、実験によって統計的有意性を伴うその関係を立証または反証します。に正しいかどうか検証するわけです。しかし、もし関係性が立証されずに再現性も確認できなければ、再現性の危機に陥ってしまいます。Suvarna Satish Khadilkar博士が『The Journal of Obstetrics and Gynecology of India』に発表した研究で、博士はリジェクトされた400編あまりの論文原稿をレビューし、原稿がリジェクトされた理由を探りました。その結果、不十分な方法論が最終的にリジェクトされてしまう最大の理由であることが明らかになりました。
また、Gareth Dyke博士は明確な仮説はジャーナル掲載のチャンスを高めるだけでなく、研究の効率性アップにも貢献すると考えています。
「研究プロジェクトを遂行する上で明確かつ検証可能な仮説を立てることは、時間やエネルギー、研究費の浪費を減らすことにつながります」とDyke博士は言います。「興味深く意義があり、達成可能で検証可能な仮説に洗練することは、すべての効果的な研究の目標です。」
研究仮説の種類
以下にご紹介する仮説の種類には重複する部分もあります。
単純仮説
単純仮説は最も基本的な形をとる仮説であり、1つの独立変数と1つの従属変数の関係性を示したものです。
例:炭酸清涼飲料(独立変数)を毎日飲むと肥満(従属変数)につながる。
複合仮説
複合仮説は2つ以上の独立変数および従属変数の関係性を示したものです。
例:炭酸清涼飲料(独立変数)を毎日飲むと肥満(従属変数)および心臓疾患(従属変数)につながる。
片側対立仮説
片側対立仮説とは実験の結果がどちらの方向に進むかを推測します。
- 増加する・減少する・上昇する・低下する・陽性・陰性・より多い・より少ない、といった語が用いられます。
- 統計学でしばしば用いられます。
例:放射線に被ばくした人はそうでない人に比べてガンのリスクが高い。
両側対立仮説
両側対立仮説は従属変数に影響があることを述べたものですが、どちらの方向かは示していません。
関連性仮説
関連性仮説は、変数のうち1つが変化すると別の変数も変化することを述べたものです。
対立仮説
対立仮説は変数同士の間に関係性があることを述べたものです。
- 対立仮説とは帰無仮説の否定命題となる仮説です。
例:1日にリンゴ1個食べると医者にかかりにくい。
帰無仮説
帰無仮説は変数同士の間に関係性がないことを述べたものであり、これは対立仮説の否定命題にあたります。
つまり、帰無仮説を立ててそれを棄却するのが研究の目標だということです。したがって帰無仮説は:
- 正しいことが立証されてはならない。
- 棄却されなくてはならない。
- 対立仮説の否定命題となる仮説。
例:1日にリンゴを1個食べても医者にかからなくて済むわけではない。
論理的仮説
論理的仮説は限られた根拠をもとに行われる推論のことです。
例:コウモリは暗闇でトラよりも巧みに活動することができる。
この仮説ではトラは夜目が利かないこととコウモリは主に暗闇で活動することが前提となっているわけです。
経験的仮説
経験仮説は「作業仮説」とも呼ばれ、様々な独立変数に対して試行錯誤を繰り返すものです。
例:
- (1) 1日リンゴを1個食べれば医者にかからなくて済む。
- (2) 1日リンゴを2個食べれば医者にかからなくて済む。
- (3) 1日リンゴを3個食べれば医者にかからなくて済む。
この例では、研究に関する知識が増えるにしたがって仮説を修正しているわけです。
統計的仮説
統計的仮説は母集団の一部や統計モデルに関するものです。この種の仮説は大きな母集団に対して仮説を立てるときに特に有効です。たとえば、イリノイ州の全人口を調査する代わりにより小さなサンプル集団を用いることができます。
例:イリノイ州の全人口の70%は鉄分不足である。
因果仮説
因果仮説は独立変数が従属変数に影響を及ぼすことを述べたものです。
例:喫煙はガンを引き起す。
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