実験ノートを学術論文の原稿に仕上げるには?

原稿執筆は気の遠くなる作業です。そこで今回は、研究ノートをジャーナルに出版できるような立派な論文原稿に仕上げる秘訣をご紹介しましょう。

最終更新日:2019年11月1日

an academic writing in a lab notebook

原稿執筆は気が重いという方も、どうかご安心ください。それはあなただけではありません。山のようなデータをわずか数ページで読者に伝えるのは簡単なはずがないのです。実際、研究成果を的確に伝えようと四苦八苦している実験屋はたくさんいます。

しかし、前向きに考えればすでに大変な実験作業は終わっているのですから、あとは実験ノートを活用する確かな戦略さえあればよいということになります。

実験ノートに記載すべき内容

実験ノートを論文原稿に仕上げるための第一歩は、論文執筆に役立つノートの書き方を身に付けることです。実験開始の直後から秩序だった記録や観察結果を記入し続けることが長い目で見ると時間の節約につながり、後になって慌てる必要もなくなります。実験を行う際には、以下のように実験ノートに必ず記入すべき重要な要素がいくつかあります。

  1. 目的
  2. 実験材料と方法論(化学反応式・分析手法・理論値・実測値など)
  3. 実験の手順
  4. 気づいたこと
  5. 実験結果

たとえ同じ実験を100回繰り返す場合でも、そのすべてを書き留めることが大切です。100度目の実験でそれまでとはわずかに異なる結果が得られるようなことになれば、温度や色のわずかな違いなど、特異な結果の原因として考えられうる要素をきちんと記録しなかったことを後悔することになってしまうでしょう。どんな場合でも、後から空白を埋める努力をするよりは情報過多のほうが好ましいのです。

また、実験ノートは個人的な参照用としてだけではなく、他の研究者たちのガイドとなる可能性があることも忘れてはいけません。理想を言えば、あなたの研究に詳しくない人でも実験ノートに従うだけで、あなたが行った実験すべてを再現できるようになっているべきです。

結果と考察

わかりやすく秩序だった実験ノートが整ったら、いよいよ原稿執筆に取り掛かりましょう。意外なことかもしれませんが、論文は前から順番に書く必要はありません。実際、原稿の最初の一文を書くのが一番難しいのというのはよくあることです。そもそも、学術論文では多くの場合、結果と考察こそが焦点なのですから、その部分から書き始める方が理にかなっているはずです。

まず、実験ノートを開き、処理・分析済みのデータも含む全データの中から論文中で強調したい結論をよく裏付ける根拠となるものをいくつか選びます。たとえば、化学構造や特性データ、回路図、スペクトル分析の結果などが含まれるでしょう。

ここで重要なのは、実験ノートの内容すべてを論文に掲載するわけにもゆかないということです。しかし、失敗に終わった実験や不都合なデータ、予想外の実験結果なども、結果と考察の章であなたのアプローチや発見を補強する上で役立つことがあります。実際、不都合な実験データも多くの場合、好都合なデータと同じくらい多くの情報をもたらしてくれるものです。

図表

次に、論文原稿に掲載予定の図表をいくつか作成し、白紙ページ(あるいはジャーナルのテンプレート)上に、原稿に登場する順番に合わせて配置します。もちろん、原稿における図表の順序と実験ノートにおけるデータの順序は一致しなくても構いません。

この段階で実験データが配置された原稿用紙は、文章は書かれていないながらも、すでに論文の全体像を大まかに示しているはずです。こうなれば、点と点をつないでひとつの図から次の図に至る経緯を読者に説明すればよいだけです。

このステップでは、それぞれの図に対して次のような解説を忘れず付すようにしてください。

  • その図は何を示しているのか?
  • どのように(なぜ)図に挙げられているデータを収集したのか?
  • その結果、どのように論文の主旨が裏付けられる(あるいは裏付けられない)のか?
  • その結果を先行研究と比較すると何がわかるのか?

実験ノートの内容と論文原稿の内容に大きな差が生まれるのは、まさにこの重要なステップにおいてです。実験ノートには何を実験したのか、どのような手法や科学的アプローチに基づき、どのような手順で実験を行ったのかが記載されていますが、論文原稿ではこういった情報を読み解いた上であなたの論旨を伝えなくてはならないわけです。

論文読者による研究成果の受け止め方は執筆者の書き方次第です。研究成果がデータによってしっかり裏付けられているなら、結論の章であなたの発見を大げさに主張する必要はありません。結論というのは手元のデータから導かれる主要な発見を読者に伝え、研究の意義を理解してもらう場なのです。

論文原稿の章立てを整理する

原稿の大部分はすでに書き終えたところで、今度は全体をまとまりのある文章にする作業に移りましょう。付随的な章(つまり、序章・実験セクション・結論など)にはそれぞれ固有の役割がありますが、主な目的は先ほどのステップで展開した主張をさらに補強することです。

実験材料と方法

論文原稿の実験セクション(あるいは実験材料と方法)には実験ノートのもっとも直接的な解釈が反映されることになります。この章では実験に必要なツールをすべて読者に提示するわけですが、信頼性や精度、再現性を高めるため、ここでも実験ノートをきちんと管理することの重要性が顕著になります。

序章

序章は、結論および考察の中で画期的な研究成果を提示するための段取りを整える場です。読者があなたの研究の全体像を把握し、業績を理解するにはどのような背景情報が必要かよく考えて書くとよいでしょう。

結論

しっかりした結論を書き上げるには、一段落にまとめるにせよ章全体に及ぶにせよ、主要な発見を要約し、それらが当該研究の最終目標や今後の研究とどのような関係にあるのか説明しなくてはなりません。

要旨(アブストラクト)

最後に要旨(アブストラクト)の添付が求められる場合ですが、カギとなる結果や結論など原稿各章でもっとも本質的な内容を選び、詳細の詰め込み過ぎに気を付けながら読者の興味を惹くような簡潔なアブストラクトを目指してください。

よい論文を執筆する上で唯一のレシピなどというものは存在しません。しかし、ここでご紹介したアプローチは実験志向の研究者にとって特に役立つはずです。実際の現象や実験データを研究の核心に据え、それに基づいて論文原稿の方向性を決めるようにするとよいでしょう。

要点を押さえた説明をするために凝った文章を書く必要はありません。実験ノートの内容をわかりやすく展開すれば、自然としかるべき論文原稿が出来上がるのです。

AJEでは、英文校正サービス科学論文校閲学術翻訳をはじめとする、包括的な執筆者支援のサービスを提供しています。AJEのサービスに関してご質問やご意見がございましたら、当社のサポートチームにご連絡ください。ここでご紹介した情報が、みなさまが次の論文原稿を準備する際のヒントとなり、研究が順調に進展することを願っております。

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