プレプリントとして研究成果を発表することの主なメリットは:
- ほぼ瞬時に、研究成果に関するクレジットを手にすることができる
- 素早く引用可能になる
- ジャーナル投稿前に幅広いフィードバックを得られる
- 読者の目につきやすくなる
- 透明性、さらに……
- スピード!
研究の普及やレビューの在り方を一変させたプレプリント。なぜプレプリントが研究成果を発表する手段のひとつとして一考の価値があるのか、今回はその理由を探って行きましょう。
高まるプレプリントの重要性
査読付きジャーナルへの論文掲載は研究者としてのキャリアを積む上で欠かせません。しかし、原稿の投稿から実際の掲載までの大きなタイムラグは研究のペースダウンにつながってしまいます。
しかも、複数の査読者による審査を経た上でリジェクトや再投稿、修正ともなれば、さらに時間がかかることになります。
査読は依然として研究発表サイクルの重要な部分ですが、多くの点でプレプリントはそれを追加し、改善します。ここでご紹介するのはプレプリントが研究者としてのキャリアや分野全体にもたらす5つのメリットです。
プレプリントを利用すれば、ジャーナル掲載前に研究成果のクレジットを手にすることができる
プレプリントは初めてという方はきっと、どうしてクレジット(研究成果の発見者・提唱者が自分であること)をジャーナル掲載前に主張できるのかと疑問に思う事でしょう。では、どうしてそんなことができるかと言うと……
プレプリントにはCrossRefを通してデジタルオブジェクト識別子(DOI)が付与されます。 CrossRefは1997年以来、従来の学術誌に掲載された最新論文(およびいくつかの古い論文)にもDOIを付与している、非営利のIT標準化組織です。
DOIとはインターネット上のドキュメントを特定するために付与される、一連の数字やアルファベット、記号のことです。DOIには必ず、対応する文書が電子ジャーナルをはじめとする学術サイトにいつ投稿・公開されたかを示すタイムスタンプが含まれています。このDOIおよびタイムスタンプは従来の電子ジャーナルでも研究成果の第一発見者を周知するため、論文執筆者によって利用されてきました。
以下に挙げるのは最近DOIが付与されたプレプリントの例です。このプレプリントで新しく割り当てられたDOIを確認でき、査読が完了する前でも優位性を確立できます。
では、DOIはどのようにプレプリントに適用されるのでしょうか?CrossRefは2016年にプレプリントへのDOI付与を開始しました。以来、CrossRefに登録されているプレプリントサーバーにプレプリントを投稿する研究者は、研究成果の第一発見者が自分であることを周知することができるようになっています。
多くの場合、プレプリントが審査プロセスを経てオンライン公開されるのにかかる時間は1~3営業日です。しかも、査読プロセスが始まる前であっても研究を公開することができます。
信頼性の高いプレプリントサーバーは公開前にプレプリントの審査を行っています。たとえば、Research Squareのプレプリントプラットフォームには 「適切な倫理と同意書・利益相反の開示・患者の個人情報保護・不適切で不安を煽る主張や物議を醸すような主張、疑似科学的な主張を含まない」といった基準で編集チームがプレプリントの審査を行っています。
研究結果が波紋を呼ぶと考えられる場合など、プレプリントによってはさらなる精査が必要となることもあります。その場合、当該のプレプリントは審査担当者の手を離れてMichele Avissar-Whiting編集長に委ねられ、念入りな審査が行われることになります。
この段階で、編集長はプレプリントを公開するかリジェクトするか、あるいは研究に関する誤解を最小限にするための注釈を添えるという条件で受け入れるかを判断します。
後者の場合、Avissar-Whiting編集長は執筆者とともに、研究および成果を解説するためのわかり易い注釈を準備することになります。
「私たちの理念はオープンリサーチと研究の透明性です。だからこそ、できる限り多くの研究をできる限りオープンにする努力をしているのです」とAvissar-Whiting編集長は述べています。
すでに普及しているプレプリント
プレプリントサーバーは、物理学や統計学、コンピューターサイエンスの分野では数十年前から研究発表プロセスの一部になっています。新型コロナウイルスの世界的流行でプレプリントの利用は普及が進み、 研究を迅速化する信頼性の高い手法として受け入れられるようになりました。以来、プレプリントサーバーに投稿されるプレプリントは、とりわけ生命科学や社会科学分野において劇的に増加しました。
プレプリントは査読前・掲載前でも引用が可能
DOIのおかげでプレプリントの引用は簡単です。また、完全にオープンアクセスなので読者の目に着きやすく、Webブラウザさえあれば誰でも読むことができます。さらに、ソーシャルメディアやニュースをはじめ様々な手段で自由にシェアすることができるため、引用のしやすさも高くなります。
『Nature Index』に掲載されたニコラス・フレイザーによる計量書誌学的研究によれば、プレプリントはジャーナル掲載後少なくとも3年間の引用数を増加させることが示唆されています。
『Journal of the American Medical Association(JAMA)』に掲載された別の研究では、執筆者が研究成果をプレプリントで先行公開した場合、引用数およびAltmetricのスコアが増加することが示されました。プレプリント投稿によって、最終的に論文がジャーナル掲載された際に、論文の関心度を示す「Altmetric Attention Score」および引用数が3倍近くまで上昇したのです。より多くの同分野の研究者やメディア、読者の目に留まりやすいほど、あなたの研究はより多くの注目を集める可能性があります。
研究コミュニティにとってアクセス容易なプレプリント
プレプリントには世界中の研究者の格差を埋めてくれる働きもあります。発展途上国などの研究者は、論文掲載に何千ドルもかかるようなオープンアクセスの学術誌に研究を出版する余裕がありません。
『Nature』誌の論文掲載料(APC)はゴールドOA場合、1万ドルを超えることも珍しくありません。またPLOS社のジャーナル でも800ドルから5,000ドル程度のAPCがかかります。とはいえ、特定の基準を満たす研究者については掲載料の減額または免除を行っているジャーナルもあります。たとえば、発展途上国の研究者はこういった規定に含まれるはずです。
一方、プレプリントはゴールドOAの論文と同等のアクセス性を無料で提供しており、こういった研究者たちが成果をより幅広い研究コミュニティに発表するのをサポートしてくれます。しかも、これらの研究にもDOIが付与されるため引用可能です。ジャーナル投稿・掲載にかかる費用には様々な種類があります。詳細はAJEの記事でチェックしてみてください。
プレプリントは査読前の連携やフィードバックを促進します
従来のシステムでは、ジャーナルに投稿された原稿には掲載前に査読者2、3人によるフィードバックが付くのが常でした。しかし、プレプリントの公開を行えば、あなたの研究成果はより早く他の研究者の目に留まることになるでしょう。その結果、重大な欠点や誤りを指摘してもらったり、議論を裏付けるデータやさらなる研究のヒントをもらったり、さらには共同研究の提案をしてもらえることもあります。これらはすべて一流ジャーナルへの論文掲載に向けた第一歩になるでしょう。
フィードバックはコメントを通じて公開することも、または電子メールを通じて非公開で提供することもできます。ここで、ある研究者がプレプリントで研究成果をシェアした結果、メリットを手にすることができたというエピソードをご紹介します:
この執筆者がどのようにしてプレプリントを積極的に利用するようになったのかについてはこちらの記事をご覧ください。 プレプリントを投稿することでこの研究者は10ヶ月も早く研究成果を公開することができ、その後たった2ヶ月で閲覧数は1,500回以上に達したと言います。「研究者ならプレプリントの利用をためらわず、積極的に活用してほしいです。原稿の投稿だけではありません。プレプリントを読んでコメントを書き込むのです。」
プレプリントは研究の透明性を高め、人目に付きやすくして不正行為を防止してくれます
プレプリントサーバーは完全なオープンリサーチを実現し、研究成果がインターネット上の人すべての目に留まるようにしてくれます。そのため、剽窃者やハゲタカジャーナルのような不正行為を働く人物を衆目に晒すこの上ない手段になるのです。
従来の査読付きジャーナルに原稿を送付する場合、投稿プロセスは非公開です。また、査読も非公開で行われ、一次審査を通過した原稿は同分野の査読者たちに回されることになります。通常、査読者はその論文がジャーナル掲載に値するかどうかの判断を行い、修正が必要であると考えられる場合にはその旨を報告します。
そして、アクセプトされた場合、その研究成果は論文著者(および共著者)のものであると正式に認められるわけです。一方、リジェクトされた場合、そのジャーナルは当該論文を手放すことになるため、執筆者は他のジャーナルを当たって再投稿を試みるのが一般的です。
しかし、査読者が査読プロセス中にあなたの論文を剽窃したり、一部を盗用して勝手に利用したらどうなるでしょう?不正行為を働く者たちにとって、非公開の査読プロセスやアクセス制限は恰好の隠れ蓑になってしまうでしょう。しかし、Avissar-Whiting編集長が述べているとおり、プレプリントはこのような不正行為を明るみに出してくれます。また、プレプリントは論文代筆業者やハゲタカジャーナルをあぶり出す役割も果たします。
プレプリントは研究成果をよりスピーディに普及させます
プレプリント最大のメリットは研究成果を迅速に普及できるということでしょう。査読全体にかかる平均の時間は4ヶ月だとされています。一方、プレプリントなら研究成果をほぼ瞬時(1~2日)に公開し、興味を持った読者に素早く届けることができるのです。
特に、新型コロナウイルスの世界的流行の初期段階ではプレプリントが文字通り人命を救いました。新たな発見の普及にかかるタイムラグを短縮したからです。迅速にデータが公開されたことで素早く確認作業が行われ、知見が深まっていったのです。オープンサイエンスが真価を発揮した瞬間でした。
新型コロナウイルス関連の研究成果が査読プロセス前にシェアされたことは、非常に迅速なワクチン開発を可能にしたばかりか、研究や学術的知見に基づいた公共衛生政策や、臨床現場におけるよりよい治療法の導入にも貢献しました。
とはいえ、プレプリントにも限界はあります
ここまでご紹介してきた通り様々なメリットをもたらしてくれるプレプリントですが、限界もあります。たとえば、正式な査読が存在しないほか、インパクトファクターに結び付けられません。しかし、こういった懸念は根拠のない誤解に基づいていることも少なくありません。
終わりに
論文の執筆は大変なものです。しかも、英語で執筆するとなればなおさらです。当社では日本の研究者向けに、研究成果の公開を迅速化するサービスを提供しております。学術論文の高度な編集を目的として、当社が開発したAIベースの低価格なAJEデジタル校正をお試しになってはいかがでしょうか?