図書館や図書館員は、長い間情報の整理、アクセス、収集、保護に熱心に取り組んできました。そのような立場であればこそカード目録やマイクロフィルムからパソコン、電子書籍に至るまで、情報技術の発展を第一線で目撃してきたわけです。
けれども、図書館は黎明期の技術を取り入れるのが遅いというレッテルを貼られているのは、あまり知られていないかもしれません。実際、図書館は新技術に関する市場が安定し、人々がアクセスや教育の機会を求めるようになるまで導入をためらうというケースがよく見られます。
しかし、コミュニティのニーズに応えるという任務を負う図書館員たちにとって、この実践までの流れはことさら課題となってのしかかってきます。というのも、対応に時間がかかるということはサービスにおいて遅れをとってしまうだけでなく、トレーニングをはじめとする主要なスキルにも時差が生じてしまうからです。
もちろん、図書館の経営陣やリーダーはこの問題を認識し先手を打とうと試みています。しかし、新技術が次々に生まれる昨今、そのペースについていくのはほとんど不可能と言ってよいでしょう。最近の人工知能(AI)ソフトやツールの著しい進化を見ればそのジレンマは一目瞭然です。
長年、図書館は人工知能が普及するたびにそのプロセスやツールを取り入れ、潮流に乗り遅れまいとしてきました。しかし、現在巻き起こっているAIツールの波は、組織全体で変化を受け止めようと奮闘する図書館や図書館員たちを翻弄してしまっているのです。
そこで、今回は人工知能によって図書館が受ける影響を5つの項目に沿ってご紹介しながら、既存の活用法と応用可能性の接点について探ってみたいと思います。
1. 情報のプロとして
情報の整理とアクセス確保は図書館員にとって大事な役目であり、その改善に役立つ革新的手法の追求は日夜続けられています。すでに、分類システムに人工知能を導入することで延滞書籍の管理や検索精度は飛躍的な高まりを見せており、こういったテクノロジーの助けを借りてデジタル目録の分析やテーマの特的、メタデータの追加も行われています。
そして、AIにもとづくツールやソフトウェアの普及にともなって図書館員たちは今後も適応を続けてゆくことでしょう。情報の管理人およびコミュニティのパートナーとしてますます拡大・加速する役割を全うすべく、複雑な目録システムを管理する上で不可欠な検索エンジンやスキームの開発に携わる一方、人工知能を利用した機械学習ツールの設計にも参加するようになるはずです。さらに、AIツールの探し方や扱い方を積極的に人々に伝える役割をも担うことになります。
2. 図書館の運営
図書館は一筋縄では行かないその長い歴史を通して、関連テクノロジーの導入によって運営システムをアップデートし続けてきました。最初は、貸出履歴の追跡や延滞料の徴収といった単純作業における小規模な変化に過ぎませんでしたが、コンピューター技術の発展にともない手動システムを電子化することで図書館の自動化を推し進めることができるようになったのです。そして現在、ルールベースのソフトウェアや人工知能の進化に支えられて、図書館の運営システムは新たな局面を迎えようとしています。
ロボティック・プロセス・オートメーション
すでにロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を導入し、データ移転や本棚の管理、フォーム処理、メールマーケティングといった運営上のルーティーンを効率化している図書館もあります。また、ロボット工学を応用し、巨大な倉庫から必要に応じて書籍を運びだす自動書庫システム(AS/RS)を実験的に導入している図書館も少ないながら存在します。
スマート図書館
人工知能を応用した将来的な図書館運営は「スマート図書館」という概念に集約されます。つまり、ドアや照明、セルフサービスの売店からパソコンに至るまですべてがリモート管理されており、利用者は図書館員の手を借りずとも必要なサービスを受けられるということです。利用者は携帯情報端末(PDA)を利用して書籍を検索したり借り出したりすることになるでしょう。
3. ユーザーサービス
各利用者のニーズに合わせた信頼性の高い有用なサービスを提供することは、図書館および図書館員にとって重要な目標です。そういったサービスにはあらゆる図書館に共通する基本的な要素 ――蔵書の拡張、貸出、書籍情報の管理、図書館間相互貸借、プログラミングなど―― が含まれます。一見、静的な作業に思える内容ですが、ユーザーのニーズや新技術の登場に対応する必要があることから実際には非常に流動的です。
さて、世界各地の図書館ではこのような要望を満たすため人工知能の導入がすでに進められています。このような例として、まず挙げられるのは利用者対応を行うAI式チャットボットでしょう。チャットによる24時間対応に慣れた利用者に対し、高度にカスタマイズされた情報を効率的に提供することができるこのシステムは、有効性もすでに証明済み。また、利用者に新たなAIツールを紹介し、適切かつ安全に利用するためのインストラクションを行うプログラムも作られています。
人工知能が利用者たちの間で普及し、今後も大きな影響をもたらすことは間違いありません。そこで、図書館は新たなニーズに対応すべく計画を急いでいます。こういった努力の一環としてAIツールを貸借サービスに活用すれば、たとえば、利用者の検索・貸出履歴にもとづいたおすすめを表示するなど、より高度にカスタマイズされた直感的なサービスを提供することが可能になるでしょう。また、AIツールは慎重に扱うべき情報を容易に識別することができるため、そうでない情報を一般公開することでボーンデジタルの資料に対するアクセス性を高めるといったことも考えられます。
4. データ・AIリテラシー
1970年代以来、図書館をはじめとする学術組織は情報リテラシーの重要性を強調してきました。ここでいう情報リテラシーとは、課題を解決したり判断を下したりする上で必要な情報を見つけ出し、活用するための一連のスキルによって定義されます。さらに1989年にはアメリカ図書館協会が正式な提言を行い、全米で情報リテラシーを研究や教育課程、公共政策に取り入れるようアドバイスしました。
ところが、情報のフォーマットや発信方式の変遷にともなって情報リテラシーには以下のような新たな側面が加わるようになってきたのです:
- 情報源リテラシー
- 研究リテラシー
- コンピューターリテラシーほか
とりわけ、今日の図書館や図書館員が目標として掲げているのはデータリテラシーとAIリテラシーです。
データリテラシーというのはデータの検索や理解、それに対する批判的な思考法を学ぶことです。一方、AIリテラシーというのは、AIの仕組みや論理、限界、そして潜在的な影響を理解することを指します。図書館が利用者のAIリテラシー取得を手助けすることになれば、人工知能にもとづくツールやプロセスの利用がますます一般化する現代社会において、積極的な社会的取り組みに欠かせないスキルを人々に伝えることができるようになるはずです。
5. 図書館の分析
図書館におけるデータ分析はおもに貸借・利用履歴を通じて取得、保存された統計データに基づいて行われ、以下のような具体的な疑問に答える際に活用されます:
- 「どの書籍が蔵書から紛失してしまったのか?」
- 「図書館を訪れる人がもっとも多いのはどの時間帯か?」
しかし、この手法は人海戦術であるばかりか非効率的であり、取得できるデータも古く重要性の低いものに限られてしまいます。
そこで、人工知能の導入という手段が視野に入るわけです。AIによるデータ分析ならば、ほぼリアルタイムでパターンを特定することができるからです。そのようにして得られた情報をもとに、図書館員はサービス改善を図るための方針立案や管理体制を生み出すわけです。
おわりに
伝統的に図書館は黎明期の技術を取り入れるのに時間がかかると言われてきました。しかし、昨今の人工知能の発展を前に、図書館は目的意識をもって積極的な取り組みを行っています。図書館協会や評議員会、図書館員、そして利用者が一丸となって、AIが図書館運営やサービスを倫理に沿った形で補助できるよう導いてゆくことになるでしょう。
本記事では人工知能によって図書館が受ける影響を5つの項目に沿って探り、既存の活用法と応用可能性の接点についてご紹介しました。